足元からサァーと冷えるような日には、アツアツのあれが食べたくなる。
土鍋でぐつぐつ煮込まれた、大きい海老天が二つ入ったあれ。
日が暮れた田舎の町。店中に長年染みついた甘じょっぱいたれと、油の混じった匂いがする小さなうどん屋さんで食べたあれは、格別に美味しかった。
コシは残ってるけど煮込んだから表面が少しくたっとしたうどん、おつゆがじゅわっとしみ込んだ三角お揚げ、柔らかめの白いかまぼこにシャキシャキ輪切りのねぎ。
定番の卵は入っていないけど、お店で揚げた大ぶりの海老天が二つも入っている。目の前に置かれた土鍋からふわぁっと出汁のきいたおつゆの匂いがたまらない。
とりあえず、おつゆからいただくのは定番。
こういうアツアツの汁物は、気をつけないと地味に下唇をやけどするから注意が必要だ。でも熱いおつゆが喉を通り、胃に到達したときの中からじんわりお腹があったまる感覚は思わずほぅ……とため息が出てしまう。
一息ついたら早々にうどんに箸を向ける。そう簡単に冷めはしないのに、冷めないうちにうどんが伸びないうちにと挑むのだ。もちろん、合間にトッピングされた具材たちを口に運ぶのも忘れない。
このときの小さなうどん屋さんは、夕飯時ともあって席数のほとんどが埋まっていた。
年代もさまざまで、家族連れや夫婦や友人同士と思える人たちが食べに来ていた。ただただ、黙々と食べていた。聞こえるのは厨房の音と換気扇、衣擦れやときどき子どもの声とあちらこちらで鼻をすする音だけだ。
そんな様子を感じながら、いよいよ目の前の鍋の中も残り少なくなってくる。
ここで、大事にとっておいた海老天の残り一つを、幸せとともに噛みしめる――。
今年もまた足元からサァーと冷えがのぼってくる日がつづく。
キッチンの戸棚にしまわれたままの一人用の土鍋を思いながら、市販品をそろえてアツアツのあれを作ろうかと思う。
そんな風に思いをはせていれば、頭の中、口の中、腹の中があれを欲していっぱいになってくる。
この状態でコンビニやスーパーに行けば、きっと冷凍やアルミ鍋のあっためるだけのあれに吸い寄せられる確率は高いだろう。だが、それもまたやむなしだ。
とにかく、鍋焼きうどんが食べたい。恋しいのだ。
この気持ちを一刻も早く満たすために、気合いを入れて寒空の下へ、いざ!